札幌高等裁判所函館支部 昭和28年(う)40号 判決
記録を精査検討すると被告人が飲酒していたことは明からでその酩酊の程度については十分審理されていることが認められる。しかし弁護人が原審第一回公判期日において、被告人は当時相当量の焼酎を飲んだため心神耗弱の状態にあつた旨の主張をしたことが認められ、これに対し原判決が何等の判断をも示さなかつたことは所論のとおりであつてこの点において原判決は刑事訴訟法第三百三十五条第二項に違反して判決すべき判断を遺脱したものといわなければならない。かゝる違法は同法第三百七十九条にいわゆる訴訟手続に法令の違反がある場合に該当し、しかも該違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は破棄を免れない。この点に関する論旨は理由がある。
〔弁護人の控訴趣意〕
一、本件は仕口自体実に単純幼稚で頭脳に故障があるのではないかと疑われる程である。その被害額も僅に六百円で、その内五百円札一枚は被害者と共に飲んだ家の入口の辺に落ちていてその場で被害者に戻つている。
被告人は当日夕頃に焼酎一合か一合五勺を飲み、更に本件直前後被害者の馳走で倶に相当の酒を飲んでいたことが明で、本件の仕口動作、前叙のように盗品の大部分である五百円札を落して行つた点に徴すれば相当強く酩酊していたものと認めることが至当である。而して被告人は酔つていたので本件当時のことは判らない旨を主張している。この被告人の主張は酩酊による心神喪失を原因とする無罪の主張少くとも心神耗弱を原因とする刑の軽減の主張であるから、本件行為当時の被告人の酩酊の程度を決するため其の前に被告人の飲んだ酒類は日本酒なのか、焼酎なのか、又飲酒量は何程であつたのか、飲酒に要した時間、被告人の酒量等を明にし、然る上右被告人の主張に対する判断をしなければならないのに全然これを尽さなかつた原判決には審理不尽と判断遺脱の違法がある。